核酸・蛋白質科学研究室(B)
(新井)
Laboratory of Molecular and Cellular Biochemistry (B) [LMCB-B]
「真核生物の遺伝子相同組換えの分子機構の解明」
減数分裂期組換え [DNAの再編成]
我々の遺伝子 DNAは正確に複製され、そして子孫へと受け継がれています。
しかし、生殖細胞 を形成する過程でDNAがつなぎ換えられていることを知っていますか?
[DNAの修復]
普段の生活の中では、宇宙放射線、強い紫外線、化学物質等によってDNAの切断が起こっています。
その切断された DNAを常に修復して元の状態に戻しています。
このDNAの「再編成」とDNA切断の「修復」には生物自ら制御している共通のメカニズムがあります。それが「相同組換え」です。相同組換えは、 DNA修復という「正確性」とDNA再編成という「多様性」の両方に関わっています。
もしかすると生物進化 の原動力となっているかもしれません
当研究室では、DNA 相同組換えのメカニズムを解明するために、関連する遺伝子からタンパク質を人工的に大量に作らせて精製し、それらのタンパク質を試験管内で再構成する生化学的手法を中心に、 遺伝子の機能を改変した細胞を用いた分子遺伝学的手法、DNAとタンパク質の複合体を直接観察する走査型プローブ顕微鏡 SPMによるナノテクノロジーを駆使しながら研究を進めています。
相同組換えのDNAレベルでの分子メカニズムは,(1) DNAの切断,(2) 相同なDNA鎖の検索対合,(3) 再結合の過程に分けることができます。その中で(2) の相同な(塩基配列の似ている)DNA鎖を探し出し対合する過程を「相同対合」(homologous pairing) と言います。
私たちは、「細胞内の長大なゲノムDNAから如何に塩基配列の似ている部位を探し出すのか?」という点に着目しています。まず、相同組換えに関与している遺伝子から人工的にタンパク質を作り、それを精製単離します。続いて、それらのタンパク質と2種類のDNAを試験管の中で混ぜ合わせて生体内での相同対合反応を再現させます。このような生化学的方法を中心に用いて、相同組換えに関与しているるタンパク質の機能を明らかにすることにより、相同組換えの分子メカニズムの解明を目指しています。
相同対合を試験管の中で解析するために、一本鎖DNA断片(ssf)と閉環状二本鎖DNA(form I)を基質とした反応系を使います。その反応系に組換えタンパク質を加えて相同対合が形成されると "D-loop" と呼ばれる組換え中間体が形成されます。
真核生物の相同組換えの研究には出芽酵母は最適です。
出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae)
・真核生物である。
・ヒトと相同遺伝子がある。
・高等生物のモデル系となり得る。
・相同組換えの効率が高い。
・ゲノムDNAの情報が豊富。
・ゲノムDNAの改変が容易。
・培養も容易(お金がかからない)。
出芽酵母の相同組換えに中心的な役割を担っているタンパク質がRad51とRad52です。
相同対合によって形成された D-loop は電気泳動により分析されます。放射性物質または蛍光物質で標識した直鎖状一本鎖DNA断片(ssf)と閉環状二本鎖DNA(form I)を用いて反応を行い、アガロースゲル電気泳動でDNA を分離します。ssfは速く移動し、form Iはゆっくり移動します。D-loopはssfとform Iとの複合体ですから、分析機器イメージアナライザーTyphoonで放射性物質や蛍光物質を解析すると、D-loopはform Iの位置に現れるssfのシグナルとして検出されます。。
私たちは、出芽酵母のRad51タンパク質とRad52タンパク質の両方がある時にD-loopが効率よく形成されることを発見しました。
大腸菌のRecAタンパク質は単独でD-loop形成を触媒します。Rad51とRecA は働きがよく似た相同遺伝子です。
Rad51はDNA上に連続して結合します。これをフィラメント構造(nucleoprotein filament) といいます。Rad51は一本鎖DNAと二本鎖 DNA の相同性(塩基配列の似ている領域)を探し出して、一本鎖DNAを二本鎖 DNA の間に侵入させて、相補鎖と水素結合を形成させるための中心的役割をしています。その時にD-loopが形成されます。上の図は、Rad51とRad51が結合した立体構造で、関連するアミノ酸(赤、青)が示されています。黄緑はDNA結合に関連するアミノ酸です。図中の右下の写真は二本鎖 DNA 上に形成されたRad51 フィラメントを走査型プローブ顕微鏡で観察したものです。
1. Rad51 filament 形成の必要性について
Rad51のフィラメント形成はどのような働きをしているのか?一本鎖DNAと二本鎖 DNA の相同性検索には、立体構造から推測して二量体で十分なのではないだろうか?フィラメントを形成しないRad51はできるのか?そもそもRad51-Rad51はどのように結合しているのだろうか?
2. Rad52 C側領域の機能解析
Rad52のC末端側の立体構造はわかっていない。N末端側にDNA結合部位があることが分かっていたが、C末端側にもDNA結合部位があることがわかった。そしてC末端側のDNA結合部位はRad51とのDNAのやり取りに重要であることを発見した。では、どうやってDNAを受け渡しているのだろうか?
3. Rad52によるDNA末端結合への影響
Rad52は相同組換えに必須なタンパク質だ。しかし、相同領域を使わないDNAの組換え(非相同末端結合、NHEJ)にも関与していることを発見した。試験管内で、DNAリガーゼは直鎖状DNAの末端を結合させて環状DNAを作る。しかし、Rad52は、リガーゼの直鎖状DNAの末端結合を促進して、直鎖状DNAを連結をさせて長大な直鎖状DNAを作り、環状にはならない。この反応とNHEJは関連しているのか?どのようなメカニズムが働いているのだろうか?